「秘密のポケット」を持つ人とは?
名誉ある孤立を保つ人は、いわば「秘密のポケット」のようなものを心に持っています。
秘密のポケットの中には、その人にとっての大事な宝物が入っています。この宝物こそが趣味というものだと思うのです。
宝物=趣味は、周りの人と同じでなくてもかまいません。例えば、音楽を趣味とする人が集まり、一緒にバンドを組んで演奏を楽しむのは結構なことです。
けれども、同じ趣味を持たなくても、一人一人が心にそれぞれの秘密のポケットを持っているだけで、人間関係はおのずと豊かになるはずです。
秘密のポケットを持つ人には、どこか人としての奥行きのようなものが感じられ、魅力的に見えるものです。
そのため、個々のポケットの中身は違っていても、なにか秘密のポケットを持つ人と会話をすると、楽しい時間を過ごすことができます。
たとえば、ビジネスの上の知識あれこれというようなことは、あまり話をしても面白いことはありません。
私も、昔、ある会社に頼まれて仕事をしたときに、その会社の幹部の人たちに招かれて、会食の機会などを持ったことがあります。
彼らは一人一人はたいそう真面目で良い人柄のようにお見受けしたのでしたが、遺憾ながら、そこでの話は「当社は、昨年、那須高原に新しいコンセプトの工場を立ち上げまして……」
「当面は、再来年くらいをめどに、こちらの新しい業態へ移行するという方向でございますが……」とかいう調子で続き、それを1時間も2時間も聞かされて、もう退屈で閉口したことがあります。
これでは、「この人たちとは二度と付き合いたくないな」と思うのが道理で、そこから新しい人間関係なども生まれてくるはずがありません。
これが、なにか芸術の話、文学の話、趣味の話、などだったら、また新しいアイディアも共有できて、人間関係が深まっていったかもしれないのに、残念なことでした。
趣味を持つことの意味は、畢竟(ひっきょう)、人間関係を豊かにすることでもあり、自分の人生を楽しみ多いものにすることなのです。