伝家の宝刀を使うときがきた

川遊びがようやく終わると、BBQ だ。陽気の民たちは、音楽を流してビールを飲みながら踊ったり、カレーを作ったり、肉を焼いたり、チーズの燻製を作ったりしている。

子どもたちはみんなでニンテンドースイッチを始めてしまったため、お世話作戦が使えない。ここは料理を手伝うか、ご婦人方の輪に入るか。女性陣はもうビールやら酎ハイやらを飲みながら、若いシングルママの恋愛相談に乗っている。かーっ、だめだ、入れない。考えるだけで痩せそうだ。

肉チームは、何かの罰ゲームで人員が決まったらしく、手出しができない。チーズ担当は燻製機の持ち主である。手出しができない。最後の砦、カレーを作っている人に「手伝ってもいいですか?」と声をかけてみる。

「大丈夫大丈夫。普段頑張ってるお母さんたちは、今日くらいゆっくりしてて♪ ね?」ね? じゃねえ。今すぐお玉をその手からぶん取って、この男の頭をかち割ってカレーを作りたい。

しょうがない。私の伝家の宝刀を使おう。――読書だ。一人で読書をすることにした。

こんな状況で本なんて1ミリも読めない。できることなら文章の世界にトリップしたいものだが、いくら集中しようとしても文字が全然頭に入ってこない。ひたすら同じ行を繰り返し読んでいる。もうこのポーズで時が過ぎるのを待つしかない。

「世界で一番本が好きな人で、どこででも本を読むんです。みんながBBQ していても、目の前に突然アフリカ象が現れても、親の死に目にでも本を読む人です。これが普通なんですよ」という姿勢でやり過ごす。

すぐ時計を見てしまうが、何度見てもまだ17時だ。もう100万回は見ている。