私ちゃんと溶け込めている?
「みなさんはお友達同士なんですか?」「お仕事は何されてますか?」「へー、すごーい」「そうなんですね。大変ですね」「えー。美味しい。レモン入れると全然違うね」「アヒージョやばいですね」「私ですか? 夫の会社の手伝いしてます」「そんなそんな。全然」「本当だよね。男の子しか育ててないから、たまに女の子と話すとびっくりする」
用意してたセリフを羅列して、淀みなく会話をこなす。中身なんてまるっきりない。でも、みんな笑ってるからこれで合ってるっぽい。他の人の話だって全然笑いどころが分からないのに「ウケるー」と手を叩いてのけぞってみせる。
きっとあのご婦人だって私と話したいなんて思ってもいないけど、私がひとりぼっちで寂しそうにしているから無理して呼んでくれたんだろうな。気を遣わせちゃって申し訳ないな。せめてこの場をしらけさせるようなことだけは絶対にしないように頑張らなくちゃ。
私、ちゃんと溶け込めているのかな? ちゃんと笑えているかな? 周りから見たら、楽しそうに見えているのかな? そんなことを考えながら、からっからに乾いた口と心で全力で陽気なフリを続けた。
どれだけそうしていただろう。10分?30分? 一時間経った? もう時間の感覚もわからなくなってきた。
あぁ、笑顔崩れてるかもしれない。もしかして今、泣き顔になっているかもしれない。限界かも。やばい。もう許してください。ごめんなさい、ごめんなさい。子どもたち、夫、他の誰でもいいから、どうか私を呼んで! この場から今すぐ消えたいっ!!
プツンと限界がきた。
「ちょっとトイレ行ってきます」
席を外してしまった。スマートフォンだけを握りしめたまま、その場から離れた。一度も振り返らず、とにかくどんどん遠くへ歩いた。気づくとキャンプ場の敷地の反対側まで歩いてきていた。