翌年の夏には新規依頼が
そして4年生の夏になると、なんとホリくんと、彼の家来みたいなヤツが二人来て「俺のも」とそれぞれ300円と原稿用紙をよこしてきたのだった。その年は前回の経験を生かして、自由帳に原稿用紙3枚分に相当する感想文を書いた。自分の分も合わせて4人分は、正直きつかった。でも、頑張った。3人には夏休み中の登校日に、ノートを破いたものと、彼らの白紙の原稿用紙を返して、自分で原稿用紙に写せ、と指示をした。
私は有頂天だった。前年からとっておいた100円を合わせると、その年は1,000円になった。前年度の3倍以上の売上げだ! 小銭だったけど、1,000円の大台に乗ったことが嬉しかった。
夏にはずっと敬遠してきた神社の夏祭りにも繰り出した。どれもこれも一つ300円以上したので結局何も買わなかったが、その場にいられること、友達と対等な立場でいられること、何を買おうかとワクワクする権利があることに、胸が弾むようだった。
もう私は普通の子と一緒だ。
そして、完全に味をしめた。
1,000円は一年をかけてゆっくり使った。それから、来年の夏休みの販売に向けて、あらかじめ読書感想文を仕込むようになった。4人分一気に書くのは流石にきつく、労力を分散しようと考えたのだ。いつもの読書のついでに「これは感想文に向いている」と思うものがあるたびに感想文も書いておいた。秋冬春の間に合計8本の原稿が出来上がった。
そしてやってきた5年生の夏休み。目論見通り、去年の3人に加えてもう二人新規注文が追加され、5人に売り出すことになった。自分の宿題に一本充てたとしても二人分余った。残りは誰かに売り込もうか……そんな考えがよぎるようにまでなった。
ところが、そこで恐れていたことが起きた。私は再び夏休み中に他の学校へ転校することになってしまったのだ。着々と開拓していた絶好調の販売エリアだったのに、人事異動で手放すことになってしまった。
仕込んでおいてよかった。既存の顧客とは、夏休みが始まる前に契約を完了させた。その年の売り上げは1,500円になった。アヤノちゃんたちには、お別れの手紙を書いて渡した。「遊んでくれてありがとう。手紙を書くね」
それ以降、結局一度も書かなかった。