転校先での新規開拓
新しい土地では一軒家に住むことができたが、壁が全面レモン色で変な家だった。相変わらずお小遣いはなかった。
小学校高学年ともなると余計に出費は嵩むもの。この頃になると、ハイクラスの女子や男子は子どもだけでバスや電車を使って街に出て遊ぶようになっていたし、ほとんどの子がお小遣い生活をエンジョイしていた。
なんとしてもまたこのエリアで新規開拓して、お金を得なければならない。そして偶然、その想いを増幅させるものに出会った。水曜ドラマ『お金がない!』だ。
当時テレビ放送されていたドラマで、織田裕二演じる主人公の萩原健太郎が、借金まみれで一文なしの状態から一流企業で大金持ちへと上り詰めていくサクセスストーリーだった。
私の心に再び火がついた。やるんだ! 萩原も、魂を捨ててナマケモノのモノマネまでしてお金を得ているじゃないか! 私は一体何をやっている! プライドを捨てて、新規開拓をするんだ!
プライドをかなぐり捨て、仲良くなりかけていた男子たちに声をかけていった。
「読書感想文、買わない?」「6年の夏休み、ラクしたくない?」
どの学校でも、読書感想文は売れることが分かった。萩原健太郎が乗り移った私は、どんどん営業をかけ、どんどん本を読み、どんどん原稿を仕込んでいった。
新規見込み顧客は膨れ上がり、クラスのほとんどが私の事業を知ることになった。ラッキーなことに、この学校ではクラス替えが2年ごとで、5、6年生の間でクラス替えはなかった。見込み客の取りこぼしが少なくて済む。
そして運命の翌年。結果、本申込みに至った人数は、なんと15人。営業をかけたクラスの子たちから外にまで広がり、他のクラスからも頼まれた。