300円の使い道

ホリくんは「あいつが感想文を書いてしまう前に」と思って急いで来たのかもしれない。ところが、自分側の約束は守れなくなったのに、感想文はできてしまっていた。まだ3年生だ。お金で感想文の対価を支払うという行為を意図的にしたわけではなく、何かできないかと必死に考えた結果だったのかもしれない。

でも、それは私にとって最高の出来事だった。念願のお小遣いが手に入ったのだ。初めて手にした自分のお金。これで、アヤノちゃんたちとジュースが飲める! 私はもう興奮状態だった。

――これで、やっと対等な友達になれる。

「今日は、私も飲もうかな」

あの時のみんなの驚いた顔も、初めて自分のお金で買ったオレンジジュースの味も忘れない。お金を投入口から入れるのに慣れていなさすぎて、指が震えて100円硬貨がカチカチ鳴ってしまい恥ずかしかった。

たった300円だったけれど、大事に、大事に使った。

最後の100円は夏休みが終わっても使わないで大切にとっておいた。

ホリくんは夏休み明け、私の書いた読書感想文をちゃんと自分の字で書き直して提出していた。筆跡については考えていなかったので、そこは感心した。提出した直後からめちゃくちゃドキドキした。先生の手にあの原稿が渡ったと思うと、たとえ筆跡がホリくんのそれでも、もしかしたら何かしらの仕組みでバレるんじゃないか? と不安だった。

ところが、いつまで経ってもそのままバレなかった。ドキドキした気持ちは、いつの間にか消えた。そして、調子に乗った。

ビジネスパートナーに「よかったら次の年もやるよ」と声をかけたのだ。お金の力は、随分と私を大胆にさせた。