夏休みに入って数日が経つと

読書感想文は得意だ。私は読書が大好きだった。いつも図書室の本を借りられる冊数の上限まで借りて読みふけっていた。本を開くだけで、つまらない現実からいろんなお話の中に出かけられた。違う国や、違う時代に生きた人の人生や知識を、今ここにいる私が知ることができるなんて、すごいと思った。一人でいられてお金がかからなくて本が無限にある図書室は天国だった。読んだ本の感想を書くことなんて全く苦ではなかった。

『褒めてくれてもいいんですよ?』(著:斉藤ナミ/hayaoki books)

あらすじを書く。どこで感動して、どうして心が動いたのかを書く。そして、読み終わって何を得たのかを書く。なんでこんなもんが苦手なんやろう? ホリくんは。

他人の読書感想文を書くという初めての体験にワクワクして、どの宿題よりも真っ先にホリくんの感想文を書いた。忘れもしない。『はれときどきぶた』という本だ。主人公の男の子がホリくんにちょっと似ていたから選んだ。

ところが、夏休みに入って二、三日が経った頃、昼過ぎに突然ホリくんが私の住むアパートにやってきた。

「ごめん。無理」

申し訳なさそうにラジオ体操カードを差し出すホリくん。

「……え? なんで?」

「スタンプ。一人分しか押してもらえんくて」

「はー? マジで? 最悪。私もう感想文書いたのに!」

「はやっ! ……ごめん」

怒りながら、でも半分「そりゃそうだよな」とも思いながら、部屋にホリくんの原稿を取りに行った。『はれときどきぶた』上手くかけたから、せめて「おまえすごいな」って褒めてもらおう。そう思っていた。

玄関に戻ってホリくんに原稿を渡した。すると……

「はい……」

ホリくんはポケットからマジックテープの財布を取り出し、300円を私にくれた。

「……え?」

思いもよらなかった。理解するのに時間がかかった。

「内緒にしてね。じゃあ」

何も言えずに黙っている私にそう言って、ホリくんは原稿を持って帰っていった。