300円から800円の値上げ

さらに、完全に萩原健太郎となっていた私は、この学校では価格を急激に釣り上げていた。一本800円だ。6年生ともなればそのくらい出せるやろ、と踏んだのだ。15人×800円。なんと12,000円! 一気に去年の8倍の売上だ。仕込んでおいた原稿は10本。予想もしていなかったが、自分の提出分も含めて6本の在庫不足だ。でも、そんなのなんともない。

もうなんだってできる気がした。必死になって書いた。一本1,200文字の読書感想文を一気に6本。読む。あらすじ。感動した部分。心が動いた理由。読む。あらすじ。感動した部分……。ひたすら書いた。楽しかったはずの読書も作文も、最後は地獄のようだった。それでも6本、仕込んでいたのも合わせて16本、全部を最初の登校日までに書ききった。

登校日に全員に原稿を配って回ると、そのうちの一人には「やっぱりいい」と断られた。一契約、不履行となってしまったが、それでも今年の売り上げは11,200円。欲しかったゲームボーイブロスだって、もう自分で買える!

自分で商売をしてお金を稼ぐ体験を味わって、この世の全てを手に入れたような気すらしていた。もう、以前の惨めな私はいない。誰も、私をかわいそうな貧乏な子だとは思っていない。最高の夏休み。その年の神社の夏祭りでは、自分のお金でフランクフルトを買った。

浮かれていた夏休みも終わり、2学期が始まった。流石に14人もが私の書いた感想文を提出するという事態には、とてつもない緊張感があった。

大丈夫。みんな、自分の字で清書してるはずだし。ばれっこない。自分に言い聞かせながら何日かびくびくしながら過ごしていたら、その日がついにやってきた。