トランプ一家の商売

そこで“譜代”である1階のトランプ・バーに入ってみた。正式には「45ワイン&ウイスキー」という。数字はやはりトランプが第45代大統領だったことに由来する。

店内はダークブラウンの木目を基調とした落ち着いた高級感のあるデザインで、照明も暗く雰囲気は悪くなかった。ただ、いたるところにトランプの大きな写真が飾られていた。モノクロに加工されてシックな感じだが、額縁はまたしても金ピカ。カウンターに座ると、そのひとつと目があった。せっかくの雰囲気なのに、どうも落ち着かなかった。

カウンターでトランプ・ワインを飲む(写真:『ルポ 国威発揚-「再プロパガンダ化」する世界を歩く』より)

しかも女性のバーテンダーは、「アメリカをふたたび偉大にしよう」の赤帽姿。さすがに悪趣味ではと思いながらも、とりあえずトランプ・ワインのスパークリング(ブラン・ド・ブラン)を注文した。

やはりここも観光客慣れしており、テキパキと対応してすぐに持ってきてくれた。シャンパーニュを思わせる繊細な泡立ちで、甘すぎることもなく、すっきりとして飲みやすかった。

トランプ・ワインは、次男のエリック氏が首都ワシントン南のヴァージニア州で経営するトランプ・ワイナリーの商品だ。スパークリングだけではなく、白、赤、ロゼと幅広く展開している。

メニューには、そのラインナップを使ったオリジナルカクテルが並んでいた。店名に由来する「フォーティー・ファイブ」、合衆国ファースト・レディー(First Lady Of The United States)の頭文字を取った「FLOTUS」――。

今回は、トランプがフロリダ州に所有する別荘にちなむ「マール・ア・ラーゴ・スプリッツァー」を頼んだ。トランプ・ワインの白ワイン(ソーヴィニヨンブラン)、グレープフルーツジュース、ソーダ水に、オレンジの切れ端を添えた一杯である。淡いオレンジ色が爽やかで、なるほど南国を思わせるロングカクテルだった。

ちなみに値段は24ドル(約3600円)。驚きの価格に恐れおののいたが、マンハッタンのオーセンティックバーで飲んだらそんなものなのだろう。そう自分に言い聞かせながら、観光客からもしっかり集金する、トランプ一家の商売上手に舌を巻いた。