生きてきた人間の経験を残したい

下巻ではブラジル移民が重要なテーマになります。実際の日本を知らずに、日本人らしくあろうとする。これもアメリカで育った私に重なります。新型コロナウイルス感染症という現実の出来事をうまく取り込むこともできました。

小説を書くのはこれで最後でしょう。緻密に物語を織り上げていくのは、もう体力的に無理ですね。

ただ、馬鹿みたいな話ですが、最近、ようやく自分のことを本当に小説家だと思えるようになりました。自分にしか書けないものを残したいという、使命感のようなものを感じるようになったのです。

家族で交わした手紙が数千通残っているので、これからはそれをもとに自伝的なものを書きたいと思っています。今後、AIも小説を書く時代になるでしょう。AIに書けない、生きてきた人間の経験を残したい。

フィクションは簡単に作れますが、真実の価値は高い。私にとっては自分の過去をしっかり書くことのほうが、小説家として意義があると考えています。