あまりのことに茫然としていると、彼のお兄さんに「葬式や納骨代の6万円を出してほしい」と頼まれた。とはいえ、私はもうすっからかん。これ以上どうしたら……と考えて、ふと貯めていた小銭のことを思い出した。

鞄に入れていたビニール袋の小銭を全部出し、すがる思いで銀行へ。残高と小銭を合わせると、何と6万円と少しあったのである。あまりにもできすぎで、笑ってしまう。

葬儀などを一通り終えて家に帰ると、彼のよく着ていたコートが目に留まった。内ポケットにはたばこの箱。私の前では守っていた禁煙だが残りは2本しかない。私の誕生日の翌日に亡くなった彼からの、最後の贈り物だろうか。私はそのたばこをゆっくりと吸った。

あれから数十年が経ち、あの頃のことを思い出すときがある。考えてみたら、ちょうど3年の同棲生活。短いが楽しい記憶だ。

今や私はもうすっかりおばあちゃんになり、がんの治療中に髪の毛も全部抜けてしまった。そんな私が彼の遺したコートに身を包む姿を見たら、彼は何と言うだろうか。

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