衝撃的な実験結果
こうしたなか、世界的な製薬メーカーがβ-カロテンの大量生産を行い、世界中で効果を証明するための大規模な投与実験が行われた。
結果を最初に発表したのはフィンランドの研究チームだった。3万5000人の喫煙者を二つのグループに分け、片方にはβ-カロテンを投与し、もう片方にはβ-カロテンと偽りプラセボ(偽薬)を投与した。当時すでに喫煙と肺がんの因果関係は明らかになっていたので、喫煙者を対象とした実験結果には大きな期待があった。
しかし人々は結果を見て驚いた。わずかではあるが明確な有意差をもってβ-カロテンを投与された人たちのほうに、肺がんおよび心筋梗塞になった人が多かったのである。
この最初の発表に対して、世界中のβ-カロテン研究者たちは何かの間違いではないかと疑ったのは無理からぬことであった。伊藤教授もフィンランドの報告はどこかに間違いがあると思いますよ、と反論していた。
この後、引き続いて発表された米国における5万人以上の規模の投与実験でも、同じ結果が出た。
米国では10年計画で行っていた投与実験を、倫理的な理由で中止した。
投与されたほうが明らかにがんになる人が多いと判明しているにもかかわらず、さらに駄目押しの実験を続けるのは人道にもとるという理由からであった。
ただ、中国で行われた実験のみがβ-カロテンを投与された人のほうが効果を示していた。