夢の健康食品β-カロテンの大規模実験がなぜ中止されたのか

なぜ、フィンランドと米国の実験が期待に反した結果となったのであろうか? 今では次のように考えられている。

β-カロテンは病気の根源となる活性酸素を潰してくれる抗酸化能が高く、生体内の酸化を防ぐことでさまざまな効果を発揮している。ところが、その抗酸化物質は必要もないのに大量に存在すると、活性酸素を発生させるプロオキシダント(酸化促進剤)としての作用が出る。

栄養事情のよい欧米で行われた実験では、十分な栄養素をとれている対象者がβ-カロテンを摂取したので、下図のように活性酸素の発生源となって障害が発生したのである。一方、その当時欧米ほど栄養事情がよくなかった中国においては、抗酸化能が十分発揮され期待どおりの効果が確認されたと言われている。

<『健康食品で死んではいけない』より>

以上の結果は、健康食品を考えるうえでかなり重要な要素である。まず、疫学調査からβ-カロテンという素晴らしい可能性のある物質の存在が浮かび上がってきた。それならと、ヒトや動物の細胞を使用してさまざまな角度から実験を行い、有用性が確認された。

そこで短期間に行った数々の実験のよい成果をもとに、長期にわたってヒトがβ-カロテンを摂取した場合に本当に有用かどうかの介入試験と呼ばれる実験が大規模に行われた。

そうしたところ予測外の結果が出た。β-カロテンの抗酸化作用がマイナスの結果として発現してしまった。以上がβ-カロテン問題の顛末である。現時点ではなぜ効果が得られなかったのかその原因が判明しているが、投与する前には予測が困難だったということである。

※本稿は、『健康食品で死んではいけない』(講談社)の一部を再編集したものです。

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健康食品で死んではいけない』(著:長村洋一/講談社)

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