夢の健康食品として支持を集める

その疫学調査から、β-カロテンに大変な有用性のあることが浮かび上がってきた。緑黄色野菜を多く摂取する人たちに、種々のがんや心筋梗塞の危険性が低いことが証明された。緑黄色野菜の抗がん作用の共通因子はβ-カロテンであった。

そこから世界中で、β-カロテンを多く含む食品によるさまざまな疾患から体を守る予防的効果を調べる動物実験やヒトへの投与実験が行われ、素晴らしい成果が得られていった。

たとえばヒトが摂取したβ-カロテンが、生体内で病気の根源となる活性酸素の発生や過酸化障害を防ぎ、遺伝子(DNA)や悪玉コレステロールと呼ばれるLDLの酸化を防ぐことが明らかになった。

これらの現象は、がん化や動脈硬化、老化を防ぐことを示唆する。さらに動物実験では、予想どおり発がんを抑え、動脈硬化を防ぐ結果となった。

『健康食品で死んではいけない』(著:長村洋一/講談社)

実は同じように病気を防ぐビタミンとして、ビタミンAがβ-カロテン以前に知られていた。そこで健康食品として販売されたが、たくさんとりすぎた人たちにビタミンA過剰症という障害が発生してしまった。

ところがβ-カロテンは、体内でビタミンAに体が必要とする分だけ変換される。どれだけ摂取してもビタミンA過剰にならないということがわかっていた。したがって1980年代には、β-カロテンが夢の健康食品になると考える学者がたくさんいた。

当時、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)に在籍していた私は、仲のよかったβ-カロテンの疫学研究における日本の第一人者である公衆衛生学の伊藤宜則教授から、実際こうした話を聞かされていた。

私も、β-カロテンはやがて素晴らしい健康食品として世の中に出るに違いないと考えていた。’80年代の終わり頃には研究者によるβ-カロテン礼賛の本まで出版されている。