チーム医療

外回りができれば次は器械出しだ。やはり外科の胃部分切除とか胆嚢摘出とかが基本になる。外科の定型的な手術ができれば、少し難易度の高い胃の全摘術とかリンパ節郭清とかの器械出しも任せてもらえる。外科の次は、眼科、耳鼻科、呼吸器外科、泌尿器科、整形外科と、いろいろな科の器械出しを次々に経験していった。

そうした中で千里は、器械出しは看護師同士のチーム医療であることを学んでいった。器械台の上にペアンを並べる。その位置は左端。ハサミは中央。電気メスは右端。そういう並びにはルールがある。自分が使いやすいような位置に置いてはいけない。手術が長時間になると、器械出しの看護師は休憩交代をすることがある。そのときに、自分勝手に器械を並べてしまうと交代した看護師が困るからだ。

自治医大に来てから季節は春から夏になった。千里は自分の仕事が流れに乗ってきたことを感じていた。

オペ室内での仕事がうまくできるようになると、千里は「術前訪問」のために病室へ足を運ぶようになった。明日に手術を控えた患者に面会し、手術室に入るまでの流れや麻酔の手順を説明したり、患者の不安を聞き取ったりする。麻酔がかかるまで話しかけていてほしいとか、手を握っていてほしいと言われたりすると、その要望に応じるようにした。

すべての患者に術前訪問をするのは、時間の制約もあるためなかなか難しかったが、できる限り病棟へ足を運んだ。これも楽しかった。ときどき迷子になって、行きすがりの看護師に「ここ、どこですか?」と聞いたりしたが。

 

※本稿は、『看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。


看護師の正体-医師に怒り、患者に尽くし、同僚と張り合う』(著:松永正訓/中央公論新社)

10刷となった『開業医の正体』、待望の姉妹編。

一人の看護師が奮闘する日々を追いかけ、看護師のリアルと本音を包み隠さず明かします。