自分が観たいものは自分で創るしかない

染五郎 高麗屋には、伝統を継承すると同時に、新しいものに挑戦する気質が代々受け継がれているので、僕も、誰もやったことがない新しいことをやってみたいという気持ちがあります。

幸四郎 2019年は、三谷幸喜さんの作・演出で染五郎も出演した『月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち』や、チャップリンの映画『街の灯』を原作にした『蝙蝠の安さん』を上演するなど、いろいろ実現できた年だった。

染五郎 そばで見ていて、すごいなと思っていました。三谷さんから「こんなふうにやってみて」という提案があると、絶対に「そんなことはできない」とは言わず、必ずそれを形にしていたので。

幸四郎 自分の感覚としては、誰もやったことのないことをやるというより、自分が観たいものがこの世にないから創るという感じかな。自分が観たいものをどこかでやっていれば、観に行くだけですむんだけどね。そのほうが楽だし(笑)。でも、ないなら自分で創るしかない。それが、創ることへのエネルギーになっている気はするね。

染五郎 僕も、自分で歌舞伎にしてみたいものはあります。シルク・ドゥ・ソレイユの『O(オー)』には感動しました。ほかにも影響を受けたものはいっぱいあるけれど、一番好きなのはマイケル・ジャクソン。今回、『婦人公論』さんから好きな言葉を直筆でというご依頼があったので、マイケルの言葉から選んで書きました。

幸四郎 マイケルを好きになったのは、何がきっかけだっけ。

染五郎 吉本新喜劇。

幸四郎 えっ、そうなの? NHKのこども番組『ハッチポッチステーション』で、グッチ裕三さんがマイケルのモノマネをしてマイケル・ハクションっていうのをやっていたじゃない。染五郎はちっちゃい頃、それをずーっと見ていて。それで、曲が体にしみ込んだのかもしれないよ。吉本新喜劇では、芸人のアキさんがマイケルの曲が流れると踊り出すというギャグをやっていたけど、それのこと?

染五郎 それが最初のきっかけです。僕がそれを見ていたら、「これが本物だよ」って、「BAD」という曲のミュージックビデオを見せてくれたでしょう。そこからハマりました。

幸四郎 ああ! そうだったっけ。

染五郎 「ビリー・ジーン」という曲のPVは、男の人が帽子をかぶり、マイケルにスポットライトが当たるところから始まるけれど、衣裳が白と黒だけのモノクロの世界。そのシンプルな感じにすごく惹かれたので、いつか歌舞伎に取り入れてみたいと思っています。