「外見がいい」の価値

主人公が変えようとした未来は、それだけではありません。勉強を理由に家事を手伝わなかった兄を料理の面白さに目覚めさせ、「男の子にそんなことを」と拒んできた母親の意識をも変えていきます。

そうして3人が台所で楽しそうにしていると、父親もなんとなく参加したそうな素振りを見せる。「なにもしない」と思われてきた昭和の男性も、実は家族のコミュニケーションから、疎外されていただけかもしれないのです。

また、主人公と同じくタイムスリップした、かつての同級生・天ヶ瀬。彼をイケメンに設定したのは、「外見がいい」ということの価値が男女でまったく違うということを書いてみたかったからです。

雅美は中学時代の憧れだった天ヶ瀬と親しくするうち、彼が実は外見だけでもてはやされる虚しさや、男性社会からの嫉妬に苦しんでいたと知る。優しいようでどこか女性を見下していた天ヶ瀬が、主人公の影響で少しずつ変わっていく様子は、楽しんで書きました。

私は新作の執筆に向かうとき、「これを誰か面白がってくれるのだろうか」と不安になることがあります。でも今回は、「あ、これは大丈夫だな」と思えたんですね。

ほぼ書き終える頃に、「ふてほど」と略されて2024年の新語・流行語大賞もとったドラマ『不適切にもほどがある!』が昭和と令和の価値観のズレを取り上げて話題になったことや、NHK連続テレビ小説『虎に翼』が世代を超えて女性たちの共感を呼んだことが、背中を押してくれました。

差別主義的なドナルド・トランプがアメリカ大統領に再選されるなど、女性が生きやすい社会にしていくことの難しさに、ふと絶望を感じることもあります。

皆さんも本作を通じて、どうぞご自分の過去を振り返りながら今後の人生を考えてみてください。そして、未来への希望を少しでも見出していただけたら幸いです。