癖の強い父とドライで大胆な母
僕が小学校4年生の時にわが家は引っ越し、ほどなく保育園は閉園しました。
17年間の保母生活が終わり、母は作家に専念することに。すでに百合子叔母とのコンビで、「ぐりとぐら」シリーズや『らいおんみどりの日ようび』などいくつもの作品を世に出し、宗弥とも何冊か作っていました。
そうそう、母と百合子叔母は、男1人女4人の5人きょうだいでしたが、母と百合子叔母以外は総じて物静か。たまにきょうだいが揃うと、母と百合子叔母のマシンガントークがすごかったですよ。
姉妹が昔から知っている人々やできごとを、アレがコレでどうだこうだと時空を超えて語り出す。ことばが空中をポンポン、飛び交っていました。
保母をやめた母に変化があったかどうかは、正直よくわかりません。小さな敷地の一軒家は、1階に二間、2階に僕の部屋だけがあるちまちまとした作りで。ドアは玄関と勝手口、それにトイレと風呂だけで、父が本棚なんかを手作りして仕切りにしていました。その家に両親がずっといるようになったわけです。
この頃、子犬のロクが来たことが中川家にとって、そして、僕にとって大きな出来事でした。
芸術家を自任する癖の強い宗弥と、ドライで大胆な面のある李枝子ですから、たとえば、母がバーンとドアを閉めると、父は「芸術家の妻たるもの、そんなことはするな」。言い争いになれば、僕は板ばさみです。だから、ずっと弟か妹がほしかった。
そこへ来たのがロクです。ロクは時に緩衝材となり、家族の話題の中心になって、僕がどれだけ楽になったことか。両親は共作で『子犬のロクがやってきた』を作りました。