名医とて/人の寿命は/処置できぬ
落語の小噺のような小ネタを紹介します。ドイツで働いていた知人の話です。
ある日、子供が高熱を出して病院に駆け込んだら、医師に言われたそうです。「ああ、ただの風邪ですね。放っておいたら治りますよ」と。
でも、熱は下がらない。治りそうな気配もない。再び病院に行きました。熱が下がりません。ちゃんと治療してください。死んだらどうするんですか!」ドクターに詰め寄ったわけです。
すると、医師は平然と言いました。「ああ、それは神の思(おぼ)し召しです」大したオチではないのですが(笑)。
「人の病気をネタにするとはけしからん」とおしかりもきそうですね。でも、この話をしたのには理由があります。
死生観について話したかったのです。ドイツの人は、日本人では考えられないような死生観を持っています。
でも、欧米では珍しくありません。信仰している宗教が大きく影響しているのです。
「風邪ぐらいで死ぬ人は、どうやっても生きられない人間だ」という発想が、どこかにあるのだと思います。
これに対し、日本の場合は、生命力があろうがなかろうが「とにかく生かす」という発想です。
でも、それは1970年代以降のことです。いまでは「風邪をひいたら病院に行く」というのが当たり前ですが、それ以前は、風邪をひいたくらいでは病院にはかかりませんでした。
つまり、死生観が変わったのです。
欧米と日本、どちらの死生観がいいのか?という話はここではしません。なぜなら、死生観なるものは、人それぞれだからです。議論をするだけムダです。
でもひとつだけ、日本人には、大事な視点が抜け落ちているように思います。
「(男女問わず)人はどうせ、いつかは死ぬ」という視点です。私はここに大きな問題があると思っているのです。