新人デザイナーの登竜門「装苑賞」

ヒロコ 一度だけ、絵描きを目指していた高校時代に「貧乏画家にはならんといて!」って美大行きを反対されたことはあったけど。

ジュンコ でも、そのおかげでデザイナーの道が開けたじゃない。

ヒロコ そうね。イラストで洋服のデザインを紹介する「スタイル画」に出合い、絵の技術をファッションに生かせるとわかって、文化服装学院に路線変更したの。絵を描くのはやめたくなかったから。

ジュンコ 私はお姉ちゃんと比べられるのがイヤで、別のことをしようと思っていたのに、お姉ちゃんのスタイル画の先生が私の絵を見て、「上手ですね。なぜ、お母さんと同じ仕事を目指さないの?」って。その言葉に導かれて、結局、文化服装学院に入学。やっぱり、道って敷かれているのね。反発していても、スーッと進んでしまう。

ヒロコ 私の後をついてきたのよ。(笑)

ジュンコ でも私は、新人デザイナーの登竜門「装苑賞」を最年少の19歳で取った。かわいそうだけど、お姉ちゃんは取れなかったのよね。「あんな腹立つことはないわ」って言ってた。

ヒロコ 妹に先を越されて、人生で一番悔しかった出来事だけど、私のときは装苑賞が始まったばかりで要領が掴(つか)めなかったのよ。でも、身近に最大のライバルがいたおかげで、競争心がモチベーションになって成長できた。それが今も、私たちを奮い立たせている部分はあると思う。

ジュンコ それは確かにそうね。

 

※本稿は、『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(著:コシノヒロコ、コシノジュンコ、コシノミチコ/中央公論新社)

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