新人デザイナーの登竜門「装苑賞」
ヒロコ 一度だけ、絵描きを目指していた高校時代に「貧乏画家にはならんといて!」って美大行きを反対されたことはあったけど。
ジュンコ でも、そのおかげでデザイナーの道が開けたじゃない。
ヒロコ そうね。イラストで洋服のデザインを紹介する「スタイル画」に出合い、絵の技術をファッションに生かせるとわかって、文化服装学院に路線変更したの。絵を描くのはやめたくなかったから。
ジュンコ 私はお姉ちゃんと比べられるのがイヤで、別のことをしようと思っていたのに、お姉ちゃんのスタイル画の先生が私の絵を見て、「上手ですね。なぜ、お母さんと同じ仕事を目指さないの?」って。その言葉に導かれて、結局、文化服装学院に入学。やっぱり、道って敷かれているのね。反発していても、スーッと進んでしまう。
ヒロコ 私の後をついてきたのよ。(笑)
ジュンコ でも私は、新人デザイナーの登竜門「装苑賞」を最年少の19歳で取った。かわいそうだけど、お姉ちゃんは取れなかったのよね。「あんな腹立つことはないわ」って言ってた。
ヒロコ 妹に先を越されて、人生で一番悔しかった出来事だけど、私のときは装苑賞が始まったばかりで要領が掴(つか)めなかったのよ。でも、身近に最大のライバルがいたおかげで、競争心がモチベーションになって成長できた。それが今も、私たちを奮い立たせている部分はあると思う。
ジュンコ それは確かにそうね。
※本稿は、『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『コシノ三姉妹 向こう岸、見ているだけでは渡れない』(著:コシノヒロコ、コシノジュンコ、コシノミチコ/中央公論新社)
映画『ゴッドマザー コシノアヤコの生涯』2025年5月23日全国公開!
「コンプレックスは武器になる」コシノヒロコ
「一番若いのは『今』」 コシノジュンコ
「大切なのは自分を信じる力」 コシノミチコ
デザイナー生活50年超、揃って世界的ファッションデザイナーの三姉妹が語る人生哲学が満載。