住民が資金を出し合って建てた真新しい学校は、イスラエル軍によって破壊された(映画『“壁”の外と内』より)

イスラエルでは報道されない現実

「テロ組織から国民を守るため、自衛のためガザを攻撃せざるをえない」――多くのイスラエル市民はそう考えています。停戦を求める大規模なデモも取材しましたが、それは交渉で人質を取り戻すためであり、自分たちの残酷な戦争を終わらせるという意識はありません。

私が話を聞いた独立派のイスラエル人ジャーナリストは、「メディアはイスラエル軍による占領や武力行使の実態は伝えない。だから、パレスチナ人がなぜ暴力的に攻撃してくるかわからない。その結果、パレスチナ人はユダヤ人を殺したいのだ、と思うのです」と話していた。

ガザでの戦争開始以来、ハマスの越境攻撃による被害者の映像は繰り返しテレビで流れますが、ガザで犠牲になったパレスチナ人の女性や子どもたちの映像や画像が流れることはありません。

イスラエルは「テロリスト侵入を阻止するため」として23年前に「壁」を建設し始めました。しかし、「壁」は今、壁の向こうでイスラエル軍が行う占領や戦争犯罪という「加害」を国民から見えなくする、目隠しの「壁」となっているのです。

しかし、わずかな希望もあります。兵役を拒否するイスラエルの3人の若者と会いました。その一人は「私は特別ではない。ガザの状況を知り、心を痛めた普通の人間だ」と語りました。彼らはインターネットを通して、占領やガザの実態を知り、兵役拒否を公表したのです。

また「壁」を越えて、パレスチナの村を訪れ、人々と交流するイスラエルのNGOメンバーにも会いました。

「国が戦争していても、個人として友達になり、小さな平和を探りたい」と語ります。そのメンバーが訪ねたパレスチナ人の家には、イスラエル兵に銃で撃たれて死んだ息子の写真が貼られていました。

NGOでは当時、息子がイスラエルの病院で治療を受けるための募金活動を実施。彼の死後も、父親は「彼らには今でも毎日感謝している」と語りました。NGOのリーダーは、「最初はパレスチナの村を訪ねるのが怖かった」と告白してくれました。「壁」を越える人々も、少数ながら確かに存在するのです。

今、世界中で分断と対立が深まり、見えない「壁」が広がっています。パレスチナで起きていることは決して他人事ではありません。長年こじれた歴史的な問題に、完全な和平はそう簡単に実現しないでしょう。しかし壁を越える人々が少しでも増えること、そこに未来への鍵があると感じます。


パレスチナ・イスラエル現地報告『”壁”の外と内』
:取材ドキュメンタリー上映会+トーク・質疑応答 by川上泰徳(中東ジャーナリスト)

東京・西荻:2月23日(日)、24日(月)午後1時半から

2024年7月から8月にかけて1か月、パレスチナとイスラエルの現地取材を歩き、ヨルダン川西岸とイスラエルの現地を歩き、人々のインタビューした取材の記録を構成した映像ドキュメンタリー※昨年10月に東京・アップリンク吉祥寺で上映したものの完成版です。

【内容】
(1) ヨルダン川西岸でイスラエル軍による住宅破壊、学校破壊が進む占領の日常とそこで生きるパレスチナ人の肉声
(2) 地上の家を破壊され、伝統的な洞窟住居に住む人々。(※パレスチナの洞窟住居は日本では初公開)
(3) イスラエルの戦争や占領に抗議して兵役を拒否するユダヤ人の若者たちの肉声と召集の日のドラマ
(4) イスラエル国民はガザや西岸でイスラエル軍の「加害」を伝えないイスラエルのメディア状況
(5) パレスチナ人と連帯しようとするユダヤ人市民組織の活動―私が現地を歩き、足で集めた映像を構成しました。
※上映後、1時間のトークと質疑応答を行います。

【日時】2月23日 (日)/24日(月)各13:30-16:30 (13:00開場)
【場所】西荻シネマ準備室(西荻のことカフェ2F) 東京都杉並区西荻南3-6-2-2F(JR西荻窪駅南口徒歩3分)
【参加費】2000円、大学生以下1500円 ※定員30人
※次のメールアドレスに22日か23日を指定し、事前予約が必要。定員になり次第締め切ります。
予約メール:gazanomirai@gmail.com 
※予約メールを送った方には、受付確認のメールを返信します。※主催: 川上泰徳


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