お預けとなった文学座の初舞台
文学座の初舞台は稽古中にアキレス腱を切ってしまった先輩俳優の代役だった。急遽呼ばれて、初日まで1週間足らずだったが張り切って稽古した。
ところが何ということか初日前夜、今度は私が左足を骨折してしまった。青天の霹靂とはこのこと、初舞台はお預けとなった。事の顛末はこうだ。
初日前日の稽古が深夜まで続き解散になった後、終電に乗り遅れるぞと、みんなで信濃町の駅めがけて大急ぎで走ったその時に、ガードレールとガードレールの間に張ってあったロープに足が引っかかり、身体が一瞬宙に浮いて道路に叩きつけられた。
暗がりでロープが見えなかったのだ。左膝を強(したた)かに打った。なんとか起き上がったもののメチャクチャ痛い。仲間の手を借り電車には乗れたが、とても横浜の家には帰ることが出来ない。
仕方なく友達のうちに泊めてもらい、氷で冷やしたが腫れ上がって微動だに出来ず一睡も出来なかった。
翌朝早く、少しでも動くと激痛の走る足を引きずって病院に行った。レントゲンを見た医者が「あぁこれは見事にお皿が真っ二つに割れているな」と言った。
「ええっじゃあ……今日の初日は?」「君何言ってんの。はい、ギプス」こうして、私の初舞台の夢は、左膝のお皿とともに無惨に砕け散ったのである。おまけに3ヶ月固定のギプスまでついて。
そんなスタートだった我が俳優業、以来足掛け55年、幸いにして未だ病欠は1度もない。