78歳、役者歴半世紀以上でも「まだ、足りねえ……!」喜びも悲しみも、演技こそが己の魂を呼び覚ますと語る、俳優・西岡徳馬さん。新境地を開いたつかこうへい演出の舞台『幕末純情伝』、一世風靡した『東京ラブストーリー』、そして2024年エミー賞最多部門賞受賞『SHOGUN 将軍』など、圧倒的な演技力と、作品に深みをもたらす存在感で幅広く活躍されています。そんな西岡さんが、文学座での初舞台からこれまでの俳優人生を振り返る、初の自伝本『未完成』より一部を抜粋して紹介します。
演劇は祭りだ
演劇は祭りだ、奉納祭り。広場に人が集まり神に祈って、櫓(やぐら)を組み、囲む。その上で歌い、踊るのが役者だ。2024年の秋、私は78歳になった。
幼い頃、小児喘息で苦しんだ時期もあったが、それ以外は大病もせず、よくぞここまでこの肉体が持ってくれている。
俳優はまず体力だ。この肉体がなければ何も表現出来ないし、自分が現場に行かないことには何も始まらない。この身一つだ。替えは利かない。
映像の仕事の場合は多少スケジュールの変更は聞いてもらえるが、舞台のようなライブでは大怪我でもしない限りそうはいかない。
俳優は、昔から親の死に目にも会えない仕事と言って戒められている。
当然ながら、ちょっと熱が出た、喉が痛い、歯が痛い、頭が痛い、その位なら休むことなど出来はしない。兎にも角にも、元気な身体(からだ)。
それがあって、さあそこからだ、役作りは。