猪木伝説のハイライト

猪木伝説のハイライトとも言える試合が、6月26日のモハメド・アリ戦である。試合前の兄貴を本当の意味で支えていたのは、妻の倍賞美津子さんだったと思う。

当時は、1人娘の寛子ちゃんが誕生して間もない時期だったが、苦しかった団体旗揚げのときから兄貴を「世界一のプロレスラーにする」と叱咤激励し、協力を惜しまなかった美津子さんは、アントニオ猪木の最大の理解者だった。

アントニオ猪木(左) 倍賞美津子(右)
倍賞美津子さんとともに(写真提供:講談社)

どんなに新日本プロレスがアントニオ猪木をバックアップしても、いざリングに上がれば兄貴は1人だ。ファイターの孤独は、誰にでも癒せるものではない。

アリ戦の評価は周知のとおりである。15ラウンド、45分間にわたり退屈な展開が続いたことから、試合直後は「世紀の凡戦」と酷評され、社運をかけてこの一戦に向き合ってきた新日本プロレスも金銭的に大きな痛手を負った。

ただ、この試合によって得た知名度と経験が、兄貴にとって大きな財産となったことも事実だったし、凡戦とされた試合の水面下で、実は高度な攻防が繰り広げられていたことが後年になって再評価されたこともある。