縁が結ばれるのは
あれはいつだったか、養老孟司さんと話していたら、養老さんが奥さんから「あなたって本当に人を見る目がないわね」と咎められたと言うの。
「どういうふうに返したんですか?」って訊いたら、「家内をじーっと見て、『本当にそうだね』と言いました。笑い合って、この話はおしまい」って。
長年連れ添った夫婦なら、こういうウィットに富んだ知的な会話をしたいもんだなぁって思いましたね。
結婚の縁に恵まれたとかよく言うけど、縁というのは、自分と同じレベルの人としか結ばれないと相場が決まっているんですよ。
だから私は誰かが夫の悪口を言い出すと、「あらー、大変じゃない」とか言いながら一通り聞いて、心の中で「この人も夫と同じレベルなのね」って思うんですよ。(笑)
相手のことを変えようというのは浅知恵ね。それより「自分はどうなの?」って考えなくちゃ。
夫婦間のストレスをなくすためのコツも、全部、原因は自分にあると思うこと。これに尽きます。「電信柱が高いのも、郵便ポストが赤いのも、みーんな私のせいなのよ」って昔あったけど(笑)。私もそんな感じですねぇ。
※本稿は、『人生、上出来 増補版 心底惚れた』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『人生、上出来 増補版 心底惚れた』(著:樹木希林/中央公論新社)
樹木希林さんが見つめた男と女、夫婦、家族。度肝を抜く言葉のジャブ、間を詰めて相手の本心を引き出す才知。稀代の男たちとの伝説の対談『心底惚れた』に、生前未発表「夫婦の最後を語る」インタビューを収録