悪い意味で“ついにここまできた”選挙
興味深かったのは、彼が出陣式をやるという渋谷駅に集まった支持者の年齢層が意外なほど高かったことだ。1984年生まれの私と同世代かそれ以下は目立つほどに少なく、中心にいたのはむしろ高齢層だった。
それも当然と言えば当然のことで、Windows95が発売され、多くの人にとってインターネットが身近な存在となった1995年をインターネット元年とするのならば、当時の若者はすでに50代以上で、石丸が主戦場としたYouTubeは身近なメディアになっている。インターネット=若者向けメディア、という認識がそもそも古くなっているということくらいしか指摘できる要素はないのだ。
そこで突きつけられたのは、インターネットというメディアが革新的なツールだった「夢」が完全に終わったという現実だろう。
建前ばかりが達者な“小ポピュリスト”たちの祭典――それが2024年の東京都知事選だった。悪い意味でついにここまできたかと思った有権者は少なくないだろう。
「選挙をフェスにする」。かつて左派・リベラル系の候補者が前面に押し出したスローガンを臆面もなく使ってみせたのは政治団体「NHKから国民を守る党」の立花孝志である。史上最多、56人が立候補した2024年の東京都知事選だが、実際に中身を見てみるとなんてことはない。彼らが擁立した候補者が24人も含まれている。
首都のリーダーを決める都知事選は一首長選でありながら、メディア露出の機会は国政選挙並みに多い。当選を第一の目的としないような泡沫候補が集まるには合理的な理由があるが、取り巻く状況はより悪い方向に流れているとみるべきだろう。
立花は選挙ポスターの掲示板に貼る権利を販売すると言い、最大の狙いはNHKの政見放送の時間を供託金300万円で“買う”ことだと堂々と語ってみせた。権利の売買がうまくいけば、たとえ供託金が没収されても、元が取れるということだ。
結局のところ、立花らが取り組んでいたのは「選挙」というよりも、泡沫候補によるインターネットも含めたメディアジャックに投資をする、政治のビジネス化だ。