「母と子」の関係性に着目して
――二編ともに家族関係、特に「母と子」の関係性が印象に残ります。
親が子を想う故の視野狭窄に興味がありました。「掌中」では蒼汰が保育園の頃のエピソードとして、息子が要領の悪い同級生と同じチームになることで足を引っ張られると懸念した幸子が別のチームにしてもらうよう頼む一幕があります。
また、「可及的に、すみやかに」では友人との会話の中で、詩織が蒼汰の引きこもりを知るシーンがあり、そこで詩織は蒼汰の現在を心配するのではなく、「翔が引きこもりになったらどうしよう」と自分の息子の将来を憂慮します。
幸子も詩織も子供が思考の中心を占めていて、言動に配慮を欠いたり、思考が広く及ばない。彼女たちの他人に対する無意識な残酷さ、無関心さを描けたらと思いました。
また、「可及的に、すみやかに」では「母と娘」のわだかまりについても描きました。同性同士ならではの関係性の根深さ、相容れなさというものがありますが、これも時間とともに完全にではないけれど融和していくこともある。詩織が戻ったことによって止まっていた家族の時間が動き出し、子供の存在が不器用な大人たちの潤滑油になっているような気もしました。