いじめを受ける男子中学生がラブドールと出会うことから始まる、衝撃のデビュー作『ドール』によって作家デビューを果たした山下紘加さん。
その後も異性装者、フードファイターにヤングケアラーと、性別や年齢、属性の垣根なく様々な人々の内面を鮮やかに描き出してきた山下さんの最新作『可及的に、すみやかに』は、万引き中毒に陥った主婦を描く「掌中」、二十代のシングルマザーを主人公とする「可及的に、すみやかに」の中編二作からなる一冊だ。発売から半年が経過するにあたり、本作の執筆・刊行について著者インタビューを行った。
その後も異性装者、フードファイターにヤングケアラーと、性別や年齢、属性の垣根なく様々な人々の内面を鮮やかに描き出してきた山下さんの最新作『可及的に、すみやかに』は、万引き中毒に陥った主婦を描く「掌中」、二十代のシングルマザーを主人公とする「可及的に、すみやかに」の中編二作からなる一冊だ。発売から半年が経過するにあたり、本作の執筆・刊行について著者インタビューを行った。
ふたつの意味をもつタイトル「掌中」
――「掌中」が生まれた経緯を教えて頂けますか?
以前、主人公が高齢者の犯罪小説集のようなものを書いてみませんか、とご依頼をいただいたことがあって、その流れで、自分が以前から関心を持っていた事件などをいくつか思い返しました。
「万引き」というテーマはそのうちの一つでした。窃盗犯と一口に言っても、年齢や境遇、経済状態や常習性の有無など、人それぞれ動機や背景は異なりますが、小説の主人公は、誰もが身近に感じられるような、できるだけ普遍的な女性像を追及して書きました。
主人公の息子が引きこもりというのは初めから決めていたわけではないですが、これも引きこもりが原因の、自分の中で非常に印象に残っている事件があり、以前から8050問題にも興味があったので、自分の親世代を主人公に据えたことで、書き始めて自然とリンクしていったのだと思います。
――タイトル「掌中」にはどのような意味を込めたのですか?
「掌中」というタイトルは、小説を書き終えた後で、色々と候補を出した末に決めました。万引きをするシーンを書く上で、手から伝わる感触や、手のひらに収める感覚を重要視していたのと、「掌中の珠」という言葉があるように、自分の最愛の息子を表す、その両方の意味を込めてつけました。