小説だからこそ寄り添えるものに目を向けて
――小説を書くなかで、常に山下さんが抱いているテーマはありますか。
物事のグレーゾーンに興味があるので、どういったテーマを扱っても、そこを掘り下げていきたいと思っています。善悪に関してもそうですが、表裏一体で、白黒はっきりさせられないもの/させるべきではないものは、小説でこそ自由に描けるのではないかと感じます。
「掌中」では幸子が万引きを繰り返すようになりますが、道を踏み外す人とそうでない人の境界は曖昧だと思いますし、人の感情や行動は、立場や環境によって反転してしまうこともある。人を非難しても、次の瞬間には自分が人から非難される立場になっていることはあり得ると思います。書く立場として、自分自身もあらゆる可能性を内包していることをいつも感じながら、人間に寄り添って描いていきたいです。
――これから書きたい、あるいはいま書き始めている題材について教えてください。
いま執筆中の小説は、一つのテーマに対して複数の視点で書いています。一人の視点に寄るよりも広い視野でテーマを掘り下げることができると感じています。
デビュー作とは全然違うのですが、書いていてものすごく感情が掻き乱されて、出口が見えないのに突き進んでしまう感じや、執筆に対する熱量みたいなものが、デビュー前を思い出し、何となく原点回帰のような気持ちになっています。
(聞き手・編集部)
『可及的に、すみやかに』山下紘加・著
大人だって道に迷う時あるよ――。
引きこもりの息子を案じる主婦・幸子は、些細なきっかけから万引きに溺れていく。罪を重ねていく幸子を待つ終焉とは(「掌中」)。
離婚を機に実家へ戻ったシングルマザーの詩織。彼女と息子・翔を支えるのは、折り合いの悪い母、寡黙な父、そして元夫と付き合い始めた親友だった(可及的に、すみやかに)。
ままならぬ日々を、それでも進むひとたちへ。
気鋭の著者が「母と子」を描く中編二編を収録。
大人だって道に迷う時あるよ――。
引きこもりの息子を案じる主婦・幸子は、些細なきっかけから万引きに溺れていく。罪を重ねていく幸子を待つ終焉とは(「掌中」)。
離婚を機に実家へ戻ったシングルマザーの詩織。彼女と息子・翔を支えるのは、折り合いの悪い母、寡黙な父、そして元夫と付き合い始めた親友だった(可及的に、すみやかに)。
ままならぬ日々を、それでも進むひとたちへ。
気鋭の著者が「母と子」を描く中編二編を収録。