先日、誕生日プレゼントにブランドものの高価なスクラブをいただいた。ゴージャスな容器に入っている。蓋を開けた途端、それこそいい香りが鼻孔の奥に広がった。ああ、なんて贅沢な気分でしょう。

ちょうどその頃、ほっぺたのあたりの皮膚が乾燥して傷み始めていた。こういうときは化粧品をつけるより医療用クリームのほうがいいかと思い、以前、皮膚科で処方されたものを探した。すると、丸いプラスチック容器が出てきた。表書きはない。

はてこれは、保湿クリームか。あるいは水虫の薬だったかしら。それとも痒み止め? わからないけれど、そのままつけた。数日塗り続けたが、いっこうに治らない。やはり水虫の薬だったか。そう思っていた矢先、香り高き豪華なスクラブが手元に届いた。

よし、試しにこれを塗ってみよう。スクラブだからプチプチしている。皮膚が刺激を受けて、余分な角質が取り除かれ、新陳代謝が促進されそうな予感がする。高価なものであろうから大事に少しずつ指先ですくい上げ、毎晩、顔中に塗り広げた。本当は塗ったのち、洗い流す必要があるのだろうけれど、もったいないからそのままベッドに横たわる。いい香りに包まれて、心地よい眠りにつく。

そして朝を迎え、洗顔すると、まだ完全に治ってはいないが、乾燥肌が多少回復したような気がした。新しい化粧品はシアワセを呼び込む。これもまた、いつか飽きるかもしれない。でも今のシアワセを存分に謳歌しよう。顔を洗ったのち、ふと老眼鏡をかけてそのスクラブの容器に記された文字を読んでみた。

ボディスクラブ。顔用のスクラブではなかったのね。でも気にするまい。いいじゃないの、今がシアワセならば。


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