夢かうつつか、マヒナスターズ

そうして翌晩、「スナックマヒナ」を訪ねた。緊張をまぎらわすため、行きの列車内からしこんでおいた、表向きミネラルウォーターの「ペットボトル酒」をくぴりくぴりと傾けつつ。

ペース配分を誤り、到着する頃には、脳がほんわかと浮いたような状態になっていた。現実感がまるでない。大丈夫だろうか……。

何度か意図的に道を間違えたあとには、エンジンも空に。いよいよ観念して、えぇいままよと押し扉を開けると、いきなりリーダー和田弘さんの姿が視界に入った。

ほぼ真正面の位置にいて、片手を上げ「おぅ」と一言。先だって、初めて会った時には好々爺な印象だったが、今夜はどこか「軍人」のようなお面付きだ。昔の切手に描かれてそうな。やばい、緊張とうわの空が酔いで交錯している。

「まぁ、座んなさいよ」と促したのは、リーダーの真横に座る女性。この人が、噂に聞いた「マヒナのマネージャー女史」に違いない。

内部事情はよくわからないが、日高先生の奥さんからは、「そのおばちゃんには、細心の注意を払って、嫌われないようにしなさいよ」とのお達しを受けていた。

そう、こういった物言いからも、今夜、この場所で、ぼくに対し何らかの「値踏み」が施されることは何となく感じていた。それなのに、すでに半ばどれどれになっていたのだが……。

 

ムクの祈り タブレット純自伝』(著:タブレット純/リトル・モア)