歌手、歌謡漫談家、歌謡曲研究家の「タブレット純」さん

正直、あまり覚えていない…

しかし、店内に貼られたポスターにあるように、「新生マヒナスターズ」とやらはすでに始動している。それにしても、馴染みのボーカル陣はどこにいったのだろう? 

自分の中では、プロ野球のように、「1軍」のマヒナはもちろん存続しつつも、「2軍」の育成チームのように発足したのが「新生」たるこれか、とぼんやり推測していたのだが、となるとぼくはさらなる「3軍」はたまた「4軍」要員の、ボールボーイ的な裏方候補生??

日高ママから、「今日はおあずけよ」とあてがわれた水(もう酔っていたのでチェイサー)を矢継ぎ早に口に注ぎながら、めくるめく転げ回っていた頭に、和田「元帥」の言葉が静かに轟いた。

「じゃ、お前、うたってみろよ」

一瞬のけぞったが、死刑囚のように震えながら立ち上がったのは、どこか心の奥でそれもまた予期していたことだったのかもしれない。

参謀か執事のように、その長身を空間の隅に生やしていた日高先生は、目が合うや「うむ」と小さく首肯してみえた。歌は「泣きぼくろ」でいけ、と。

いま習っている、ぼくが1番好きなマヒナナンバーだ。

♪な~きぼくろ~……

正直、歌っていたさなかのことは、あまり覚えていない。酔いによる麻痺も借りて、なんとかやり切ったようなイメージだ。あ、マヒナだけに麻痺だなんて、シャレになんない。

しかしシャレでは済まされない玉音が、へなへなと椅子に戻ったぼくに滴り落ちた。