今日から、マヒナだからな
「おぅ、じゃお前、今日から、マヒナだからな」
今日から、マヒナ?
当時やっていた、「玄関開けたら2分でごはん」というCMが、なぜかシンクロした。
スナック開けたら、5分でマヒナ。ここにおいても、まだ現実ならぬ光景に「上の空」が渦巻いていたのだが、途方に暮れていたぼくに、初めて和田さんの八重歯がきらと光った。
「なぁに、お前はマヒナの歌、みんな空でうたえるだろ。だから、クチパクで立ってるだけでもいいんだから。正式メンバーだよ」
ここへきて初めて色が戻った景色のもと、笑いとともに、拍手が起きていた。よく見たら、奥の暗がりには教室のおばちゃんたちがいた。
立ってるだけでいい。古本屋の時は「座っているだけでいい」男が、ようやく立ったその先が、マヒナ。
だめだ、まだよくわからない。マヒナって、やはり麻痺なことなのか。
その後、「よし、じゃあお祝いに寿司食わせてやるよ」と入った、カウンターだけの、ごくこじんまりとした渋いお店には、先客が一人。
ザ・タイガースの加橋かつみさんだった。GSも生き甲斐なのだ。マヒナにトッポ、あぁもうだめだ、交通渋滞。ひたすら痛飲、幸痛重態。
※本稿は『ムクの祈り タブレット純自伝』(リトル・モア)の一部を再編集したものです。
『ムクの祈り タブレット純自伝』(著:タブレット純/リトル・モア)
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テレビ・ラジオ出演、週刊誌・新聞連載などレギュラー多数、浅草・東洋館や「笑点」にも出演する、歌手にして歌謡漫談家、歌謡曲研究家……。リサイタルのチケットは秒殺、黄色い声援が飛びかう局地的大スターは、じわじわと一般的人気を得て、噂の人に!
異能かつ異端の存在「タブレット純」は、どのように誕生したのか。
いま一番気になる存在・タブレット純が初めて綴る、泣き笑い青春記。