今、もっとも気になる「タブレット純」さん

古本屋での実質的な任務

それにしても、この古本屋が潰れることは、もうずっと時間の問題だったように思う。とにかく滅多にお客が来ないのだ。

ぼくの主な仕事と言えば、実は「警察の気配を感じたら、違法な数冊の《ビニ本》と、市販のテープにダビングしただけの数本の《裏ビデオ》を棚から引き下げる」こと。

それがぼくに与えられた実質的な任務だった。

そんな訳のわからない「特殊な嗅覚」を強いられたことも、ぼくの中に犬を同化させた所以の1つだったかも。

いまにして思えばぼくは、世間の荒波どころか、世間から隔絶されたブタ箱行きの切符も紙一重で握らされていたのかもしれない。

 

というわけで、その店での「真のお客」は、夜更けにこそこそと入ってくる怪しい常連にのみ限られていた。主役は裏で、あとは表向き古本屋、といったところか。

いや、ぼくが来た当初は素朴な「町の古本屋」という風情をちんまり保っていたのだけれど、やはりもう純然たる文学書などは埃をかぶるご時世になっていて、やむなくエロ方面に手を染め、やがてエロ勢力に支配されていったというべきだろう。

ちなみに、裏でない一般のエロ雑誌も定期的に仕入れていて、それらは内部で《魚住》と呼ばれていた。

廃棄本を流通しているその先の屋号で、その名残りでぼくは今でも、草むらに落ちている色褪せたエロ本を見かけると、「あ、ウオズミ」と死んだ魚のように心が呟いてしまう。

 

※本稿は『ムクの祈り タブレット純自伝』(リトル・モア)の一部を再編集したものです。

【インタビュー記事】タブレット純「いじめや視線恐怖…普通に生きられない葛藤を、昭和歌謡が埋めてくれた。憧れのマヒナスターズに加入して」

ムクの祈り タブレット純自伝』(著:タブレット純/リトル・モア)

あなたは「タブレット純」を知っていますか?

テレビ・ラジオ出演、週刊誌・新聞連載などレギュラー多数、浅草・東洋館や「笑点」にも出演する、歌手にして歌謡漫談家、歌謡曲研究家……。リサイタルのチケットは秒殺、黄色い声援が飛びかう局地的大スターは、じわじわと一般的人気を得て、噂の人に!
異能かつ異端の存在「タブレット純」は、どのように誕生したのか。
いま一番気になる存在・タブレット純が初めて綴る、泣き笑い青春記。