中村屋、中村鶴松として駆け抜けていきたい
ーー鶴松さんが2022年に始めた自主公演の名前は「鶴明(かくめい)会」。勘三郎さんは生前「歌舞伎界を変えたい。実力のある人がよい役について活躍できる世界にしたい」と言っていた。鶴松さんを部屋子にしたのもその一つだろう。鶴松さん自身は次に何を目指すのか。
僕のようなサラリーマンの父親を持った一般家庭の人間が、歌舞伎という伝統芸能の世界で「鶴明会」を開いたことは、一つのレボリューション(革命)的なことだと思います。「鶴明会」の「明」は、勘三郎さんの本名「波野哲明」の1字をいただきました。
勘三郎さんは、歌舞伎の面白さをみんなに伝える自信があったので、歌舞伎界で様々な挑戦をしたり、テレビや映画、現代劇に出たりしたのだと思います。誰よりも歌舞伎を愛し、歌舞伎を1人でも多くの人に見てもらいたいという一心だった。
それはおそらく、誰よりも歌舞伎に対して危機感を抱いていたからではないでしょうか。危機感は今、歌舞伎役者全員が共有しているでしょう。「いつか絶えてしまうのではないか」と。僕も同じです。だから、新しい作品に挑んでみたいという願望を常に秘めています。
昨年2月の猿若祭大歌舞伎で『新版歌祭文(しんぱんうたざいもん) 野崎村(のざきむら)』の主役・お光という古典の大役を初めてやらせていただき、大きな一歩を踏み出すことができました。今まで見えていなかった世界が見えるようになった気がしました。30歳の「おじ“さん太”」ですが、まだ30歳。新しいことに挑戦しつつ、古典もしっかり勉強したい。人生のターニングポイントとなった舞台の映画を見てもらうことは、モチベーションになります。勘三郎さんの遺志を心に、中村屋、中村鶴松として駆け抜けていきたいです。

『野田版 鼠小僧』は4月4日~10日まで上映予定 *東劇は延長有
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《月イチ歌舞伎》2025公式HP
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