「子の病は魔術のせい」

2024年12月に、ハイチの首都ポルトープランスで、武装した集団に住民180人以上が襲撃され、殺害されるという事件が起きた。武装集団を率いていたのはギャングのリーダーで、ハイチの人権団体RNDDHによれば、このリーダーが、自らの子の病についてヴードゥー教の司祭に尋ねたところ、殺害された住民たちの住む地区にいる人物の魔術のせいであると告げられたため、この地区の人間を手当たり次第に殺害したのだという。

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これは、無差別殺人のように見えるがそうではない。明確に標的があり、当該人物が名乗り出なかった(またはそんな人物が存在しないので名乗り出ようがなかった)ことで、多くの人が巻き込まれてしまったかたちである。魔術が実際に相手を死に至らしめる力を持つものだと信じられていればこそ、このような事件が起きたことを考えると、現代社会にも歴然とその影響があることを思い知らされる。

また、ヴードゥー・デスは、強制収容所や捕虜収容所でも見られることがあるとして、しばしば注目されてきたが、特定の文化に固有のものだというわけでもない。

キャノンは、著書の中であるマオリの女性の例を紹介している。彼女は、自分が食べた果物が、禁忌の場所から採って来たものであることを知り、その後、24時間も経たないうちに死亡した。さらに別の例では、呪術師から呪詛を受けたとして死にかけている男性が、その呪術師からそれが誤りであったことを伝えられると、健康を回復したという。