ヴードゥー・デスの共通点
こうした症例報告を示しながら、キャノンはそれらにいくつかの共通点があることを指摘している。これらはすべて、魔法使い、シャーマンのような人物、祈祷師などの持つ、呪いの力が本当に死を引き起こす可能性があり、犠牲となった人々にはそれをはねのける力がないという信念によって引き起こされたというのである。そしてその信念は、高いレベルのストレスとなって望ましくない生理的反応を引き起こし、その結果死に至るのではないかというモデルをキャノンは立てている。
これらの突然死にかかわっているのは、アドレナリンであると考えられている。詳細な機構の説明はここではしないことにしておくが、心血管系に深刻なダメージを与え、最終的には死をもたらすというのである。
ヴードゥー教の呪術師がかかわっているわけではない例もある。がんと診断され、周りも自分もがんで死ぬと信じていた男性のケースだが、彼の死後、解剖を行ってみると、彼の死因はがんではなかったことがわかったという。この男性は、自分の死が差し迫っていると生前信じ切っており、そのことが彼の死そのものの原因となったと推測されている。
また、大学の医学部の学生たちが、気に食わない助手に対して過激ないたずらを仕掛けた例が知られている。学生たちは助手を怖がらせるつもりで、「いまからお前の首を切る」と宣告して彼を拉致した。
学生たちは彼に目隠しをし、頭をまな板の上に置いた。そして、濡れた布を首に当てたのである。この助手は、そこで亡くなったという。この事件もまた、広義のヴードゥー・デスに当たるかもしれない。死に至る外傷を与えているわけではないのに、心因性の死が起こってしまったのである。