中高年のメンタルヘルスは……
河合氏の次のような見解には、多くの中年読者が共感するところではないでしょうか。
「職場のみならず、家庭においても、夫婦や親子の関係のあり方が以前とは異なってくるので、そのために適応に困難を生じることもある」(『中年危機』、朝日文庫)
経済学者の小塩隆士氏は厚生労働省が行った「中高年者縦断調査」から17回分の個票データを用いて、「中高年のメンタルヘルスが、加齢によってどのように変化するのか」「どのような要因の影響を受けるのか」について調査しています(小塩隆士「中高年のメンタルヘルス:加齢に伴う変化とその決定要因」『経済研究』2024年75巻2号)。
抑うつの度合いを6つの観点から5段階で回答させるK6(Kessler 6)スコアを尺度にして、K6スコアが5点以上ある場合を「精神的苦痛」(psychological distress; PD)として調べたうえで、次のようにまとめています。
「中高年のメンタルヘルスは、加齢に伴って悪化する。そして、そのかなりの部分は、主観的健康感の悪化や日常生活活動における問題、そして社会参加活動からの撤退といった要因によって説明される」
孤独感が深まるなかで、だんだんと加齢による健康問題にも悩まされるのが中年期です。心と身体の両面から押し寄せる不安に、身動きがとれなくなってしまう。それが「中年の危機」の恐ろしさだといえそうです。