1977年「水中の声」で九州芸術祭文学賞を受賞後に本格的な執筆活動に入り、1987年に「鍋の中」で芥川賞を受賞した村田喜代子さん。近年では『飛族』で谷崎潤一郎賞、『姉の島』で泉鏡花賞を受賞。新刊『美土里倶楽部』では、夫を亡くした主人公・美土里と同じ境遇の友人の生きる姿が描かれています。執筆に際しての思いとは――(構成:田中有 撮影:本社・武田裕介)
書くことは「亡き夫探し」
夫を亡くして3年ほど経った友だちが、「気分はまだ、じゃんじゃん降りの土砂降りよ。まるで太い雨が庭に次々刺さるみたいで、如雨露(じょうろ)や鉢もひっくり返ったまま」と、夫を喪って日が浅い私に言いました。
バリバリ働く活動的な彼女が、陰では泣き暮らしていたなんて。その時「ああ、遺された妻たちの小説を書きたい、書かなくては」と強く思ったのです。
主人公の美土里(みどり)は、夫の寛宣(ひろのぶ)を亡くし、同じ境遇の友人2人と「未亡人会」とでもいうべきつきあいを始めます。お墓や供養のこと、娘とのすれ違い、喪失との向き合い方などを語り合い、さまざまな交流を通して、美土里が夫の死とともに生きていく姿を描きました。
ときどきフラッと死にたくなるなど、深い喪失のただ中にいる美土里。友人に電話で「毎日泣いてる……」と涙声で訴える彼女のように、私自身、不意にわけもわからず涙が止まらなくなり、ただもう泣きたいから泣く、ということが結構ありました。
夫は3年前、寛宣と同じく、病を得て麻痺状態からの回復途上でリハビリに励んでいたのに、肺炎を患い、ものの半月ほどで逝ってしまって。今までずっと近くにいた連れ合いがいなくなる、そのショックというのは大きなものです。

『美土里倶楽部』(著:村田喜代子/中央公論新社)