「料理がめんどい」人たち
山口 日本は現在、ひとり暮らしが世帯全体の約4割を占めているんですよね(令和2年国勢調査・世帯の状況/総務省統計局)。私だって自分ひとりのためには、手間がかかるオムライスは作りません。自分ひとりのためにオムライスを作れるのは、オムライスが本当に大好きな人ですよ。
佐々木 単身世帯も増えたし、家族を持ったとしても共働きの人が増えましたよね。
山口 私の料理教室の対象者は「料理が苦手な方、初心者」限定なのですが、参加者が料理が苦手だと感じたり、料理が嫌いになってしまった理由は本当にさまざまです。自分ひとりのためだけに料理を作るのが時間の無駄に感じる、食材が余って使い切れない、献立を考えるのが大変、切るのが遅くて嫌になるなど理由を挙げればキリがありません。でも総じていえば「料理がめんどい」のだと思います。
佐々木 何もわからない最初の状態は、本当に苦しいんですよね。ぼくだって、ついこの間まで、鶏のむね肉ともも肉がどう違うのかもよくわかってなかったし。スーパーへ行っても、必要な分量すらわからなかった。でも1か月、2か月と続けているとだんだんコツをつかんできて、自分が初心者を脱していると思えるようになりました。いざ入門すると、これは一生物の趣味を得たなと思うこともあります。外食しても、それがどんな風に味付けされているのか考えたり、料理をする人との話題も増えました。プロセスが多いからこそ、語ることも尽きない。
山口 人生楽しいですよね、料理ができると。食べることは毎日誰でもやっているわけだから、日々の営みが全部インプットになる。海外に行っても、市場を見たり、その国の基本調味料がなんだろうかとか考えたりして、楽しみが増えます。
佐々木 そう考えると、人生の一時期でも料理をやってみることは恩恵が大きくて、とても価値あることだと思います。対話を通じて、複雑で難しくなりすぎた料理から、シンプルさや親しみやすさを取り戻すことができればと思います。