レシピに沿って作るリスク
山口 レシピに沿って作るのは、料理が労働のように面白くないものになってしまうリスクがあります。でもレシピは、やっぱりわかりやすい。私が今、まったく料理ができなければきっと「料理のきほん」みたいなタイトルのレシピ集を買って、そこから始めちゃうと思います。家庭料理業界の人たちと集まると、初心者はレシピから始めるべきか否かという話は、度々話題に上がったりしますね。
佐々木 料理は、なぜか再現性があるんですよね。レシピに沿って作ると、ある程度その通りにできちゃう。でもたとえば、サッカーでPKを蹴るレシピって作っても仕方がない。「ボールの中心から左に15ミリの部分を、800ニュートンの力で蹴り込んで、ゴール右隅へ叩き込みます」と書かれていても、初心者はその通りにできないから。
でも料理は「切る」「加熱する」「味付けする」という簡単な作業しかないので、プロの料理人が苦労して編み出した料理も、一応レシピに落とし込めるし、本当に一回も料理をやったことがない人でも、それをある程度再現できてしまうかもしれない。
だから、とりあえずはその場を凌ぐことができる強力なものとして、レシピは重宝されるのだろうと思います。普段、料理を全然しない男性がレシピを一夜漬けで覚えて、いかにもキャンプ慣れしているように料理を振る舞う、みたいなことはよく行われているんじゃないですかね。
山口 初心者は下手で当たり前。下手な料理をきちんと作ってステップアップするという、どのジャンルでも通る道が、料理だとなかなか通れないんですよね。