横浜流星(『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』/(c)NHK)
江戸のメディア王として、日本のメディア産業、ポップカルチャーの礎を築いた“蔦重”こと蔦屋重三郎(横浜流星)の生涯を描く大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』。第16回では、「書をもって世を耕す」という意味を込めて「耕書堂」という名前を蔦重に授けてくれた平賀源内(安田顕)が獄死した。蔦重は源内の思いを伝えていくことを決意。「第一章完結」ともいえる内容だった。今後、蔦重は江戸の中心地・日本橋へ進出していくことになる。チーフ演出を務めるNHKの大原拓さんに、制作の舞台裏とこれからの見どころを聞いた。 (取材・文:婦人公論.jp編集部)

「蔦重を生きる」横浜流星 

蔦重役の横浜流星はNHK初出演にして大河の主演。源内をはじめ、周囲の人を巻き込む明るさと笑顔が印象的だ。

「横浜さんは笑顔が素敵です。見ると元気になる。にっこりなのか、柔く微笑んでいるのか、それとも破顔しているのか、いろんな笑顔がありますが、蔦重はやっぱり破顔してもらいたい。そういった意味で横浜さんの破顔している笑顔を見ると、とっても素敵だと感じています」 

横浜の自然な演技によって、蔦重の成長が伝わってきた。女性の気持ちに鈍い幼さもあったが、幼馴染で花魁の瀬川(小芝風花)への思いに気づいてからは「男らしい精悍さ」を感じさせた。目の演技も印象的だった。源内を失い、田沼意次(渡辺謙)に激昂するシーンでは、感情をむき出しに怒りに震えながら涙を見せた。源内の墓前で須原屋と語り合ったのち、耕書堂の意味を伝えていくことを決意したシーンでは、穏やかな表情でありながらその瞳には次に進むための意思が確かに宿っていた。 

「役への入り方が、とても繊細でありつつ、大胆。蔦重だったらどう生きて、どう動いているのか、どう喋るのか、森下さんが書いた台本の余白部分をちゃんと考えてくれている。 だからより立体的になる。アプローチの仕方がとても魅力的です。『役に生きる』ってよくおっしゃっていますが、横浜流星を出さない。まるで白いキャンバスです。相手によって色を変えるし、何色にでもなる。どんなものにもなっていくという魅力があります」 

横浜のアプローチの仕方で印象に残っているのが第10回だという。鳥山検校への身請けが決まった瀬川のもとを蔦重が訪れる。瀬川の絵姿も描かれた「青楼美人合姿鏡」を渡しに来たのだ。

「瀬川の部屋で、蔦重がセリフを外に向かって大声で言うんです。ちゃんと向き合って伝えるイメージでしたが、蔦重が外に向かって言うことで、最後のいちばん伝えたいことが伝わるし強弱が出る。おもしろいなって感じました。そのセリフを言うためにはどんなアプローチをするのか。ほかのやり方で表現してほしいというとさらにやってくれる。何か足りていないと思ったらクリアしようとする。そこが横浜さんの魅力に感じました」