子供の頃からディズニーの夢と希望に満ちた世界観に馴染めなかったというマリさん。なぜ、父が早逝し、母も仕事で不在がちという厳しい現実を「所詮そんなもの」と受け入れてこられたかというと――。(文:ヤマザキマリ 撮影:山崎デルス)

シビア視点のススメ

子供の頃からあまりディズニーは好きではなかった、という話をすると皆から意外そうな反応をされる。父は早くに亡くなり、母親は音楽家という仕事上、帰宅は夜半、参観日や運動会に母が現れたことはなく、演奏旅行があれば我々姉妹は人様の家に預けられて過ごす。

子供時代のそうした孤独感や寂しさを補うのに、それこそディズニーは最適のように思えるが、日々現実の厳しさを突きつけられていた私には、夢と希望に満ちた世界観はどこかよそよそしくて馴染めなかった。

もちろん最初からディズニーが不得手だったわけではない。『不思議の国のアリス』や『くまのプーさん』は好きだったが、この二つの物語へのシンパシーは、やがてルイス・キャロルやA・A・ミルンの原作に向けられた。

オリジナルの挿絵に潜む不穏さや、人間は主人公だけという飄々とした寂寥感が、アニメよりも性に合ったからだ。

このように捻(ひね)くれた子供だった私は、芸能界のような煌びやかな世界やアイドルには興味がわかず、遊園地のような場所にも関心を持たず、ひたすら図書館で本を読むか、野山で土まみれになりながら昆虫採集に明け暮れていた。