あのとき、俳優座を受けていなかったら
私生活では、31歳のときに結婚しました。ヨーロッパロケから帰国したら、よく舞台を観に来てくださる知人が羽田空港に迎えに来て、お隣に知らない男の人がいた。それが後の夫です。
後日、そのお宅にお土産を持って伺うと、「ちょっとお待ちなさい」と引き留められて、なぜか桜茶が出たんです。桜茶は結納や結婚式など、めでたい席で出すそうだけど、そんなこと知らないから、「あら、おいしい!」なんて飲んでいたら、空港で会った方がやって来て。まさかそれが、お見合いだったとは!
ちょっと反発して、「お見合いって、お互いの家族同士も一緒に会うものでしょう?」と言ったところ、段取りを組まれてしまった。家族同士で顔合わせをしたのに、「私は芝居をやっている人間なので、結婚は考えていません」なんてことを言いました。ところがテキもさるもの。「お見合いをしたからには、結婚が前提でしょう」。
それ以降、芝居を観に来てくれたり、花輪を贈ってくれたりするようになって。しかも彼の友人たちまで花輪を贈ってくださるし、何かというと送り迎えもしてくれるので、優しさに徐々にほだされて――。知り合って2年目に結婚しました。家具の輸入を仕事にしており、芝居の世界とは縁もゆかりもない人です。
「結婚したら芝居はどうするの?」と聞かれ、「舞台に立ってやっと10年です。10年で新人と言われる世界だから、新人のままやめるわけにはいきません」と答えました。向こうは商売人ですから、「お金にもならないのに、よくそんなに全力でやれるなぁ」なんて言われましたよ。