36歳のとき、千田先生が「イプセンの『人形の家』のノラ役を、市原悦子組と加根子組の2パターンでやって全国をまわろう」と言ってくださって。ところがそのタイミングで長男を妊娠したので、お断りしました。
それから8年後、再びノラを演じる機会があり、長男は私の母と一緒に観に来てくれました。ところが家に帰ったら、母が「あの子、ご飯も食べずに寝ちゃったのよ」。
「あの食いしん坊がどうして?」と聞いたんですけど、要は『人形の家』は、子どもを置いて母親が家を出ていく芝居でしょう。だから、自分の母親も自分を置いて出ていっちゃうかもしれないと、不安に思ったのではないかと母は言っていました。次男も授かりましたが、夫は56歳で逝ってしまいました。
でもありがたいことに、先日の読売演劇大賞の贈賞式には、長男、次男、孫も来てくれたんです。ほったらかしでもちゃんと育ってくれたのね。
人生って、本当に不思議。戦争はイヤだけど、戦争があったから私は立華学園に行くことになり、芝居と出合ったわけです。もしあのとき俳優座を受けていなかったら、お嬢様学校に入学し、医者になった兄の紹介で医者と結婚して、病院の受付をしていたかも、と思ったりもします。(笑)
今年、日本は戦後80年を迎えます。戦争を経験している人がどんどん減り、「え~っ? アメリカと戦争してたってホント?」なんていう子がいたりする。しかも地球上では、まだまだあちこちで戦火があがっています。
だから「戦争とは…」シリーズも、やめるわけにはいきません。可能であれば、命続く限り舞台に立っていたいですね。