育ての親役は初めて

寛と妻の千代子には、子どもがいないので、弟の清の次男・千尋を養子として育てていました。清が急逝したので、清の長男・嵩の育ての親にもなります。

(『あんぱん』/(c)NHK)

父親役の経験はありましたが、養子を持つというシチュエーションは初めて。寛も千代子も「自分たちの子どもがほしい」という気持ちがあったでしょう。でも、嵩と千尋との出会いは、それを上回るものがあったし、2人にとっては大きな財産となったと思います。

セリフは、台本に書かれた活字として読んでいるだけでは、どういうふうに一言一言に重みをもたせたらいいのかわからないんです。嵩が幼少期のころは相手が子役の木村優来君なので、「実際にこの子たちに本当に伝わるのかな」と正直不安でした。でも、木村君をはじめ、子役の子たちが素晴らしかった。一緒のシーンで対峙した時に子どもたちから教わることがすごく多くありました。自分が呼吸を合わせてちゃんと向き合って誠実に伝えればいいんだと感じました。

顔合わせの時に、木村君が台本を読んでいる姿を見て、ちょっとドキッとしました。「この子はすごいな」と計り知れないものを感じてすごく撮影が楽しみでした。

「このセリフは子どもには難しいかな」というセリフでも、木村君は何かを感じていることが彼の瞳の奥に現れている。木村君のセリフがなくても、です。寛というキャラクターをどう演じようか、クランクイン前に頭の中で考えていたのがばかばかしく思えるほどでした。

北村匠海君はすごく繊細で、光と影を持っています。今、影がある役者さんはなかなかいない。その繊細さが、唯一無二の魅力に繋がっていると思うんです。嵩を演じる上で大切な要素だと思います。初めて木村君を見たときに、北村君が持っている雰囲気に似ていて、そのまま切り替えられるだろうと思いました。

千尋役の中沢元紀君は、今時あの年齢ではちょっと珍しいくらい瞳の奥が子どものようで純粋な目をしています。北村君も中沢君も、寛が投げた言葉を受け止めたうえで跳ね返してくれるものがありました。2人とも我が子のように思え、自分も彼らのような年齢の息子がいてもおかしくないので、親子の疑似体験ができ、とても楽しかったです。