戸田と松嶋と「またどこかで」
――寛の妻・千代子を演じたのが戸田菜穂さんだ。嵩と千尋という2人の甥を実の子どものように愛情を注ぎ育てた。柳井医院の跡継ぎがほしいと願いながらも2人のやりたいことを応援。一方で、松嶋菜々子さん演じる登美子は嵩と千尋の実母。夫・清を失うと嵩を柳井医院に置いて再婚。8年も音信不通になったかと思えば、離婚してまた柳井医院に戻ってきたものの、嵩が受験に失敗するとまた出て行ってしまった。自分勝手にも見えるが、嵩の美術学校の合格発表に姿を見せるなど子どもへの愛情も垣間見える。
寛の妻、千代子役の戸田菜穂さんとは約30年振りの共演でしたので、本読み顔合わせの時に「やっと会えた」という気持ちが強かったです。落ち着いた素晴らしい女優さんになられた。どのシーンも安定感があって、安心できる奥さんでした。
養子にした子供たちが青年になってゆく過程で、育ての母として、二人とも平等に愛情を注ぎ育てているからこそ、思い悩む嵩へ厳しく向き合う姿もあれば、不意に胸にしまい込んだ弱さが溢れてしまう様など、緩急自在な表現力は戸田さんにしかできないなぁと改めて思いました。
寛は、嵩と千尋の母親・登美子にはいろいろな思いがあったとは思います。医師として日々往診に行くなかで、それぞれの家庭の始まりから終わりまで見ていますから。登美子は子どもを置いて再婚しましたし、台本を読むと「それはないだろう」と思うことはありました。でも、寛は、様々な人間模様を見てきた人物ですから、登美子の行動を理解していた部分もあったのではないでしょうか。
登美子は、台詞をそのまま話してしまうと単に破天荒な印象を受けてしまいそうな難しい役柄です。松嶋さんが演じる姿は、上品でありながらも、女性の身分がまだ低いこの時代を生き抜いていく覚悟や、したたかな一面も時折垣間見えました。観ている側が彼女の細かな演技のどの部分にフォーカスするかによって、印象が大きく違ってくるのではないかと思うほど、常に深みを感じるお芝居でした。後半のストーリーでも登美子のまだ見ぬ一面があるのではないかと楽しみです。
松嶋さんとも久しぶりの共演でした。実際にお子さんがいらっしゃるので、子どもと接する姿もすごくリアリティがあった。素晴らしい女優さんの一言に尽きます。
実は撮影で、高知弁の「にゃあ」というイントネーションがうまく言えず、方言指導を受けたことがありました。「にゃあ」「にゃ」「いや、違います、にゃあ、です」とか、こちらは真剣にやっていましたが、松嶋さんのツボにはまったようで笑っていました。松嶋さん、本番でもちょっと我慢できなくて思い出していたのかな。それはちょっと申し訳なかったですね。
松嶋さんと戸田さんとはクランクアップした時に、「またどこかでご一緒できたらいいですね」とお話しました。10年後とかだとおじいさんとおばあさんになってしまうので、あまり間隔が開かずにご一緒できたらいいなと思っています。