途上国を含めた世界の中でも日本のマスコミ優位は特異
次に、政治とマスコミに対する信頼度の相対関係について、先進国の中における日本の位置をさらに別のかたちで探ってみよう。
図1には、世界価値観調査が行われた国のうち人口1000万人以上の先進国を対象に、X軸に政府に対する信頼度、Y軸に新聞・雑誌に対する信頼度をとった散布図を描いた。

資料:世界価値観調査(World Values Survey 2021.1.29)<『統計で問い直すはずれ値だらけの日本人』より>
まず、X軸、すなわち政府に対する信頼度については、先進国で政府を信頼しているのはせいぜい国民の50%程度までであり、多くは20~30%台にとどまっている。そうした意味からは日本人のうち4割程度が政府を信頼しているのはまだいい方とも言える。
次に、Y軸、すなわち新聞・雑誌に対する信頼度であるが、先進国では、新聞・雑誌への信頼度は、ばらつきが大きい。途上国で同様の散布図を描いてみると、政府系メディアも多いこともあって、両者は正の相関にある。途上国と異なって、先進国では新聞・雑誌への信頼度は政府への信頼度とはリンクしていない。政府とは一定の距離を保った報道機関が多いせいであろう。
その最たる例は日本である。他の先進国がいずれも新聞・雑誌に対してはほぼ5割以下の信頼度しかないのに、日本だけ7割近くと非常に信頼度が高く、政府への信頼度と比べて差が大きい点が非常に目立っている。この散布図には45度線を描き入れてある。この線より上では信頼度が政府より新聞・雑誌が上回り、下なら逆である。日本は、45度線から上へ乖離している程度が先進国の中で(実は途上国を含めても)最も著しいのである。
表1で見たように、他のG7諸国、すなわち、英米、フランス、ドイツ、イタリアといった国では、日本と異なって政府も新聞・雑誌もどちらも信頼できないという国民が多いのであるが、政府は余り信頼できないが新聞・雑誌は信頼できると見なしている点で日本人は特異なのである。
※本稿は、『統計で問い直すはずれ値だらけの日本人』(星海社)の一部を再編集したものです。
『統計で問い直すはずれ値だらけの日本人』(著:本川裕/星海社)
日本人は世界でも変わっている、とはよく言われる。しかしデータを丹念に調べたとき、どのような意味で「はずれ値」なのか。
膨大な統計データを収集・分析し、社会経済動向を追い続ける伝説の統計サイト『社会実情データ図録』の管理人である著者が、「日本人」を真正面から分析したのが本書である。