(撮影:本社・奥西義和)
女優の十朱幸代さんがこの夏、朗読劇『燃えよ剣~土方歳三に愛された女、お雪』を上演することがわかった。俳優としての活動は4年ぶり。このままフェイドアウトでもいいと思ったこともあるが、今は、いつ仕事が来ても受けられる可能性を残しておきたいと考えているという。モノトーンのワンピースにヒールのあるショートブーツ姿で、背筋をしゃんと伸ばして現れた十朱さんは、とても傘寿を過ぎたとは思えない輝きを放っていた。自分はとことんプラス志向だという十朱さんに、舞台にかける意気込みや今の心境を聴いた。
(構成:吉田明美 撮影:本社 奥西義和)

やっぱり仕事が好き

私、本当に忘れっぽいんです。過ぎたことはなんでもすぐに忘れちゃう。過去は振り返らないのが信条ですから! だから7年前に初めて自伝(『愛し続ける私』集英社)を書いたときも、5月に朝日新聞のロングインタビュー(「人生の贈り物」)を受けたときも、記憶をたどるのが大変で…(笑)。周りに聴きながら答えました。

コロナ禍以降、あまり仕事をしてきませんでした。別に引退って決めたわけじゃなかったけれど、最初は時間ができたことがうれしかったの。これまでずっと働き続けてきたから、毎日、自由になる時間があることがまったくいやじゃなかったのね。女優として精一杯生きてきて、やり切った感もあったから焦りもなかった。

仕事をしなくてもけっこう忙しいんですよ。毎朝、愛犬の散歩をしなくちゃならないし、ごはんもあげなきゃいけない。67歳で両足の手術をして以来、水中ウォーキングも続けているし、庭の草花の手入れにも時間がかかる。ゆったりとした日々を過ごせるようなこんな毎日もいいんじゃないかと思ったのね。

でもテレビを見ていたら、私より先輩の石井ふく子さんや黒柳徹子さん、草笛光子さんがまだまだ現役でがんばっていらっしゃる。90歳を超えてもちゃんと社会の一員としていろいろなことを外に向かって発信しておられるのは素晴らしいですよね。それなのに私は毎日、愛犬の世話とガーデニング三昧。このままでいいのかなと…。

愛犬のキララちゃん。仕事先にも連れて行くという

それに、やっぱり仕事が好きなんです。現場も好きだし、演じることも好き。何か新たにボランティアなどを始めるという考えも浮かんだけれど、私ができることはやっぱり女優しかないんですよね。それでもう一度女優として社会とつながろうと思ったんです。