限りなく無力の私

それは「一人で、丸腰で、世界と正面から向き合う」経験である。

孤独を恐れず、寂しさから逃げず、堂々と生きるという経験である。

そう気づいた瞬間、私はガーンとなったね。

私は今まで一体何をしてきたのだろう?スイスイと世の中を泳いできたんじゃなかったのか?

幸運や時代にも恵まれて、いい学校を出ていい会社に入り、金を稼ぎステータスを得るという若い頃からの人生の目標をなんとかかんとかそれなりに達成できたんじゃなかったのか?

でもそれは、結局のところ、弱い自分を補強するためのヨロイ作りにすぎなかったのかもしれない。

「私、ドコドコのこういう者で」と言える肩書きを得ることで、この恐ろしい世界になんとか自分の安全な陣地を築いてきただけだったのかもしれない。

ふと気づけば私自身は弱く頼りないままなのである。入りたくても入れない立ち飲み屋の前で、こわごわと中を見て見ぬふりをして見て震え上がっている私は、限りなく無力であった。

そこには、必死で手に入れた肩書きに頼り切り、飲み込まれてしまっている自分がいた。肩書きを奪われて丸腰になっちゃったら、一人ぼっちでどう振る舞っていいか皆目わからない自分がいたのだ。

 

一人飲みで生きていく』(著:稲垣えみ子/幻冬舎)